皆さん、こんにちは。CTOの今村 @kyunsです。
先日、「Generative AI Summit Tokyo '24 Fall」に登壇し、バイセルにおけるAI活用の事例についてお話させていただきました。今回は、その講演の内容をまとめて紹介できればと思います。
当日の登壇資料
当日の資料はこちらです。サイト上にて登壇動画も公開されていますので、興味のある方は当日の録画をぜひご覧ください。
バイセルにおけるAI投資の全体像
バイセルでは前提として、2つのDXを掲げ、テクノロジーへの投資を積極的に行っています。 特に、リユースプラットフォームにおいては業務支援のプロダクトを開発し、各事業の成長や生産性向上を実現しています。 我々は各事業・プロダクトにおいて、解決したい課題に応じてAIと生成AIを使い分け、それぞれに適した手法を採用しています。
具体的なAI活用事例
では、具体的にどのようなAI活用を行っているのか、いくつかの事例を紹介したいと思います。
事例1:AI査定
従来の査定業務では、査定員が商品を目視で確認し、過去の販売データや市場価格などを参考にしながら査定額を決定していました。そのため、査定に時間がかかるだけでなく、査定員の経験や知識によって査定額にばらつきが生じる可能性がありました。
そこで、AIによる画像査定システムを導入しました。 具体的には、ブランドバッグやお酒など、よく取り扱う商材の情報をデータベース化し、数万枚を超える商品画像データを学習させました。 これにより、商品画像から商品の検索を素早く行えるようになり、査定時間を大幅に短縮することができました。
実際、お酒の査定時間に関しては、平均で93秒かかっていたものが22秒に短縮されました。 また、対象ブランドのバッグに関しても、9割以上がAIで特定可能になりました。 今後も対象アイテムを拡大していく予定です。
このAI査定システムは、Google CloudおよびVertex AIを活用し、学習からモデルのサービング、API提供までをワンストップで実現しています。
事例2:切手の仕分け
従来の切手の集計業務では、紙の集計表からExcelに手作業で転記するという作業が発生していました。 この作業は、時間と手間がかかるだけでなく、転記ミスが発生する可能性もあります。 そこで、生成AIを用いた切手の仕分け自動化システムを開発しました。 このシステムでは、生成AIのOCR機能で紙の集計表を読み取り、スプレッドシートに自動入力することにより、業務効率化とミスの削減を実現しました。
デジタル面からのアプローチでの精度向上はもちろんですが、我々のように実際の現場が絡むものに関してはアナログ面からの改善も精度の向上に大きく貢献します。そこで、デジタル面とアナログ面の両方から様々な改善を行いました。
- デジタル面:OCRする箇所のブロック分け、PDF解像度の固定、空欄/文字/記号の許容設定など
- アナログ面:紙面の計算表のサイズ変更、ボールペンの太さの変更、担当者名のリスト化など
これらの改善を重ねた結果、最終的に集計精度は99.52%に達しました。
事例3:「BuySell Buddy」によるナレッジ共有
バイセルでは昨年、全社員が安全に生成AIサービスを利用できるプラットフォーム「BuySell Buddy」を独自開発しました。こちらは以前にもブログで紹介しているものになります。 Slackから生成AIを簡単に呼び出して利用できたり、テンプレート機能を使ってより便利に使えたりと、非常に使いやすいUI/UXを実現しています。 Slackからの利用に加えて、リユースプラットフォームからも利用したり、スプレッドシート等からも安全に利用できるようにするために、プラットフォーム化しています。 現在、50%以上の社員が利用しており、今年だけでも利用総回数は400%増加しました。 生産性が上がったという声も7割以上あり、社内で広く利用されるようになってきています。
さらに「BuySell Buddy」は昨年より進化し、現在社内のドキュメントや店舗の接客マニュアル、査定マニュアルなど、あらゆるドキュメントに対してRAGを用いて回答できるような機能追加をトライアルで行っています。
例えば、
- カメラの一式買取りできる条件は?
- 支払調書の書き方は?
- タイムレス池袋店って何階にある?
- ゴルフクラブの査定の仕方を教えて
といった質問に対して、「BuySell Buddy」が適切な回答を返してくれます。 こちらも非常に良い結果が出ており、トライアルしたユーザーの100%が導入を支持しています。
「BuySell Buddy」のアーキテクチャ
「BuySell Buddy」はGoogle Cloud上に構成され、以下のようなアーキテクチャになっています。
定期的に様々なドキュメントやリソースを取得し、ナレッジDBをアップデートすることで、常に最新の情報にアクセスできるようにしています。
生成AIを使いこなすコツ
生成AIを効果的に活用するためには、いくつかのポイントがあります。
- 既存の業務フローを整理し、生成AIで解決できそうなフローから取り組む
- デジタルだけでなく、アナログの改善も視野に入れる
- 生成AIが読み込む前提で、プロジェクトの構成や資料の作り方などを考える
- 体系立てられた情報を生成AIにインプットする
これらのポイントを押さえることで、生成AIの精度を高め、より効果的に活用することができます。
Geminiの利点
Google CloudのGeminiは、大規模言語モデルとして、私たちのAI活用をさらに進化させてくれると期待しています。
Gemini Pro 1.5は、200万トークンを入力可能なので、体系立てられたデータを保ったままインプットすることができます。 また、Gemini Flashのような軽量かつ低コストなモデルも利用可能なので、用途に合わせて使い分けることができます。
さらに、マルチモーダル対応でPDFに強いという点も魅力的です。 100ページを超えるPDFなどもそのままインプットでき、画像やテキストが混在するコンテンツの解釈にも優れています。
今後に向けて
今後は、生成AIをイネーブルメント領域にも活用していく予定です。例えば、会話の音声を分析して査定員にフィードバックを行うことで、スキルアップを支援することができます。
また、AIエージェントの開発にも力を入れていきます。 査定員一人ひとりに合った査定を支援するAIエージェントや、最適な販路・価格決定を支援するAIエージェントなどを開発することで、より高度な業務を効率化できると考えています。
生成AIは、リユース業界の未来を大きく変える可能性を秘めています。 私たちは、生成AIを積極的に活用することで、ユーザー体験を向上させ、より良い循環型社会の実現に貢献していきます。
おわりに
今回は、現時点でのバイセルのAI活用事例についてご紹介しました。今後も、テックブログを通じて、最新の技術動向や活用事例を発信していきますので、ぜひご期待ください。 バイセルではAIを積極的に活用したいエンジニアを募集しています。